午前0時の誘惑
「いや、それは別に構わないんだけど……」
なぜか陸也は顔を曇らせた。
「なに、どうしたの?」
隣で清香が、ランチそっちのけで身を乗り出す。
「昨日、莉良を連れ去った男……アイツ、どこかで見たことがあるんだけど」
「え? どこで?」
考えるように宙を舞う、陸也の視線。
それは、そのままどこにも答えを見つけられずに、私へと注がれた。
「いや、それがよく覚えていないんだけど。……それで、誰なんだ?」
「えっ……」
逆に聞き返されて、言葉に詰まるしかなかった。
誰って……。
……誰、なの?
肝心なことを思い出して、不安に襲われる。
ひと晩中一緒にいられたとしても、スマホのナンバーを教えてくれたとしても、結局、その答えは見つからないまま。
正体不明の男であることに変わりはなかった。