午前0時の誘惑

海生が魅惑的な口元を緩める。

会計しようと持って行ったレジを前にして、私は抱えていたファッション誌数冊を落としてしまった。
その弾みで破れてしまったものを店員に見せたら、新しいものと交換する代わりに連絡先をくれと言ってきたのだ。
無償で交換してくれるものだと思った私も横暴かもしれないけど、その店員も店員だ。
いくら私がモテないからといって、知らない男の人に簡単に連絡先を渡すほど落ちぶれてはいない。

頬を膨らませる私の髪を、海生の長い指がそっと撫でた。

彼の澄んだ瞳が、ぞくっとするほど艶めく。
どうしてこれほどの綺麗な色の瞳なのか。
黒とも茶色とも、グレーとも形容できない、海生だけの色。
その向こうまで見通せてしまいそうなほど透き通った視線が、いつだって私を優しく、熱く見つめる。


「ほかには? どんなことがあった?」


童話を聞きたがる子供のように先を急かす。


「ね、私の話ばかりじゃなくて、たまには海生の話が聞きたい」

「俺の話なんか、聞いたってつまらないだけだ」


軽く首を横に振り、眉をひそめた。
いつも私の話を聞くばかりで、自分のことを語りたがらない海生。

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