午前0時の誘惑

清香の気の利く話題転換に、陸也も私の話なんて忘れてしまったようで、頬杖を突いて不満な顔を私たちに向けた。

でも、陸也の言う通りだ。
わざわざそんな式典なんて開く必要があるんだろうか。
社員へはメールか何かで社長が交代したことを案内すれば済むだろうに。
上層部の考えることは、たいていが理解不能だ。


「何着て行こうかな」


不平を持っていた割には、清香は何となく楽しそうだ。


「清香は何を着たって、男勝りなところは隠せないぞ?」


陸也がすかさず茶々を入れる。


「失礼ね。私だって、胸元が開いたワンピでも着れば、それ相応に色っぽく見えるんだから。ね? 莉良?」

「……あ、うん。そうよね」


急に話を振られて、相槌を適当に打つ。


「ちょっと莉良、随分と歯切れの悪い言い方じゃない」

「あは、ごめんね」

「莉良はいいよね、きっと、王子様が何か見立ててくれるんでしょうから」


陸也には聞こえないように、耳元で呟いた。


「まさか」


そんなことあるわけもない。
お願いするつもりだってない。

今日だって……。

自分の姿を改めて確認する。

またもらってしまった洋服。
私には不釣り合い過ぎて、失笑するしかなかった。

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