午前0時の誘惑

……一緒にいた女性は誰なんだろう。
嫌な予感が背筋を冷たく流れる。

ふたりが見えなくなったというのに、そこから目を離すことができない。


「莉良? どうかしたの?」


清香の声で、意識が呼び戻された。


「あ……うん」


あれは、兄と妹。
そう思い込もうとしてみたものの、ふたりのあの様子から辿り着く答えは、そこにはなかった。

さり気なくエスコートする海生の振る舞い、彼に注がれる女性の眼差し。
どれを取っても、兄と妹には見えななかった。


「莉良、顔色悪いよ?」

「ごめん、清香……私、帰るね」

「え? ……大丈夫? 送って行こうか?」


心配そうにする清香に「大丈夫」と何とか笑顔で告げ、店の外へとひとり出た。

足元からすくわれるような心細さが、全身を駆け抜ける。
それを煽るように、冷たい風が私の横を通り過ぎた。

歩き出すことも出来ずに、人の流れを止めるように立ち尽くす。

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