午前0時の誘惑
◇◇◇
どうやって帰って来たのか、間の記憶がないまま、辿り着いた自分の部屋。
電気を点ける気にもなれなくて、暗がりのベッドに突っ伏した。
目を閉じるとふたりの姿ばかりがプレイバックされてしまうから、暗闇の中、ぼんやりと目を開けたまま。
それでも考えることはひとつだけ。
あの女性は誰なの?
私よりも大切に思う相手なの?
海生の顔が浮かぶ度に、胸が締め付けられるように苦しかった。
いつの間にか眠りに落ちていた私を目覚めさせたのは、スマホの着信音だった。
バッグに手を伸ばし、それを手に取る。
――海生?
ディスプレイには、登録したての海生の名前が表示されていた。
初めて『非通知』ではない着信だった。
指をスライドさせ、そっと耳に当てる。
『もしもし、莉良……』
心地の良い海生の声が耳の奥まで響き渡った。