午前0時の誘惑
ついさっきまで悲しみに暮れていたのに、会いたい想いが膨れ上がっていく。
その声はどうしたって私の心を惑わせた。
『今日は悪かった。莉良からの連絡に出られなくて……』
「……何、してたの?」
『仕事だよ』
躊躇うことなく出てきた海生の嘘に、鼓動がひとつ揺れた。
私がこのまま何も見ていなかったことにして、知らん顔を貫き通せば、海生との繋がりを絶たなくてもいいのかもしれない。
いつか別れるときが訪れるとしても、その瞬間を先送りすることができる。
そう考える裏側で、自分を蔑む思いも存在していた。
私以外の大切な人の存在を目の当たりにしたくせに、どれだけ海生に縛り付けられれば、気が済むの?
自分に怒りすら感じた。
「……仕事って、女の人と食事しながらするの?」
やっぱり私はそこまで強くはない。
真実に目を瞑って、海生のそばにいられるほどの忍耐力は持ち合わせていない。
それならば……。
『え……?』
私の質問に明らかに海生が動揺する。