午前0時の誘惑
◇◇◇
一方的に電話が切られてしまった。
すぐに掛け直してみたものの、それは、電源から断ち切られてしまっていた。
……もう会わない?
別れるというのか?
莉良の口ぶりから、夏希と一緒にいるところを見られたということは確実だった。
何の応答もしないスマホを握り締め、デスクで頭を抱え込んでも、解決策のひとつさえ浮かばない。
これほど気持ちをかき乱されることなどなかったはずが。
「海生、少し飲み直しましょ? ……どうかしたの?」
ノックと共に部屋に入って来た夏希が、不思議そうに俺を見つめた。
「悪いが、出掛けてくる」
「――海生!?」
夏希の横をすり抜け、車へと急いだ。
早く行かなければ。
きっと今頃、ひとり悲しみに暮れているに違いないから。
莉良は人形なんかじゃない。
焦りから、ステアリングを握る手が震えて、気持ちばかりが先走りする。
車通りの少なくなった時間とは言え、信号で足止めをされる度に苛立ちが襲った。
一度だけ黒川の運転で来たことのある、莉良のマンション。
おぼろげな記憶を辿り、その部屋をようやく見つけた。
心が急かされながらインターフォンを押すけれど、中からは何の応答もなかった。
スマホは相変わらず電源が落とされたまま。
「莉良!」
ノックして名前を呼んでも、ドアの向こうはシンと静まり返っていた。
莉良がいる気配さえ消え失せていた。