午前0時の誘惑
王子様の正体
翌日の朝のこと。
出勤してきた職場で、パソコンが立ち上がるのをぼんやりと眺めていた。
「莉良、夕べは眠れなかったんじゃない? 目が真っ赤だよ」
清香が「どうぞ」と熱いコーヒーをデスクに置いてくれた。
海生との電話を切ったあと、私がすぐに向かったのは清香の部屋だった。
あのまま自分の部屋にいて、海生がもしも本当に迎えに来たら、絶対に抗えなくなってしまうから。
誰にでもあるはずの拒否権が、私には執行できなくなってしまうから。
そこから逃げることで、自分の意思を保つしかなかった。
「とにかく、これ飲んで、何とか頭をシャキっとさせてね」
「ありがと」
ウインクひとつを置き土産に、清香は自分の席へと着いた。
そしてそれは、ランチタイムまであともう少しという頃だった。
「莉良! これ見ろ!」
陸也が声を抑えながらも、興奮は隠しきれずに、私の席へとやって来た。
経営企画室から走ってでも来たのか、鼻息荒く私の足元に跪く。