午前0時の誘惑
王子様の正体


翌日の朝のこと。
出勤してきた職場で、パソコンが立ち上がるのをぼんやりと眺めていた。


「莉良、夕べは眠れなかったんじゃない? 目が真っ赤だよ」


清香が「どうぞ」と熱いコーヒーをデスクに置いてくれた。

海生との電話を切ったあと、私がすぐに向かったのは清香の部屋だった。

あのまま自分の部屋にいて、海生がもしも本当に迎えに来たら、絶対に抗えなくなってしまうから。
誰にでもあるはずの拒否権が、私には執行できなくなってしまうから。

そこから逃げることで、自分の意思を保つしかなかった。


「とにかく、これ飲んで、何とか頭をシャキっとさせてね」

「ありがと」


ウインクひとつを置き土産に、清香は自分の席へと着いた。
そしてそれは、ランチタイムまであともう少しという頃だった。


「莉良! これ見ろ!」


陸也が声を抑えながらも、興奮は隠しきれずに、私の席へとやって来た。
経営企画室から走ってでも来たのか、鼻息荒く私の足元に跪く。

< 48 / 72 >

この作品をシェア

pagetop