午前0時の誘惑
「実はさっき秘書課に行ったときに、こっそりくすねて来たんだ」
そう言って陸也が私の目の前に差し出したのは、一枚の用紙だった。
「えっ……? かい、せい?」
「コイツだよな、この前、莉良と一緒にいた男。どうりで見たことがあるわけだ」
「え? なになに?」
隣から清香も覗き込む。
「社長退任に伴なう、新社長就任のお知らせ?」
それは、現社長と新社長の顔写真入りで作られた、退任式のポスターだった。
「莉良のオトコって……社長ジュニアだったのかよ」
「……知らない」
首を力なく横に振る。
「知らないって、お前何言ってんだよ。知らないで付き合ってたなんて言わせないぞ」
陸也が興奮気味に語気を荒げる。
その声で、部署内からチラチラと視線を投げかけられた。