午前0時の誘惑
「だって……本当に知らない……」
海生が、うちの新社長?
そんな……。
受け入れ難い事実が、頭を何度も巡る。
「ちょ、ちょっと待って。ここ見て」
清香が案内文書の一番ラストを指差す。
『退任式では、新社長の婚約を発表致します』
絶句した。
「婚約者って……まさか、莉良なのか!?」
「そんなわけ……ないじゃない」
その相手が私じゃないことは、明白過ぎる事実だ。
きっと、海生が夕べ一緒にいた女性が、そうだったんだ。
私が見かけた、美しすぎるあの女性。
私とは生きる世界が違うということをまざまざと見せつけられてしまった。
「それにしても、社長ジュニアだっていうのに、どうして今まで見たことがなかったんだろう」