午前0時の誘惑
「それはほら、ここに書いてあるぞ。大学からずっとアメリカにいたとか。向こうで経営学を学んで、五ヶ月前に帰国だとさ」
五ヶ月前……。
それは、私が海生と出会った頃だった。
ようやく全ての辻褄が合うように思えた。
海生は、結婚までのひとときを、自分の自由になる女と過ごしたかっただけなのだ。
単なる遊び。
清香の言葉を借りれば、金持ちの道楽。
私は、それに付き合わされただけだったのだ。
次期社長になる自分の会社に私が勤めていることを知りながら、そのことも黙っていたなんて。
朝まで一緒にいなかったのは、『外泊』という既成事実を作らないため。
婚約者へのギリギリの貞操義務だ。
ただ一度だけふたりで迎えた朝は、海生にしてみれば、魔が差しただけのことに過ぎない。
スマホのナンバーをよこしたのは、私への愛情ではなく、単なる『情』。
私といくら身体を重ねようが、心はあの女性の元にあったということだ。
大切なのは、私ではなかった。
目に見えて突きつけられた現実に、私は言葉を失くしてしまった。