午前0時の誘惑

◇◇◇

「海生、こんな時間にどうしたの?」

「大事な話があるんだ」


夏希の家まで車を飛ばし、そのまま彼女を連れ出した。
大事な話という俺の言葉に反応したのだろうか、助手席に身体を預けた夏希から、どことなく漂う不安な気配。


「海生……話って?」


探るように夏希が口を開いた。

何から話すべきなのか。
言葉を探すのに、これほど手間取るとは、思いもしないことだった。
心はあれほど雄弁だったというのに。


「もしかして……婚約しないとか、そういう話?」


核心を突いた言葉に、思わず急ブレーキで車を止めた。


「やっぱりそうなのね」


軽くシートにバウンドした身体を俺に向けて、夏希が言葉を続ける。


「アメリカから帰ってすぐの頃から、ずっと様子がおかしかったことに、私が気づいていなかったとでも思う?」

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