午前0時の誘惑

当時アメリカにいた俺の意向も聞かず、いつの間にか話がまとまってしまっていたのだ。


「今どき、政略結婚もないだろう? 親の会社に振り回される必要はない。心配しなくとも、夏希の父親の会社との提携まで取りやめる気はないから」

「海生……」


夏希の瞳が揺れる。


「本当は、アメリカまで追って行きたいんだろう? 裕也を忘れていないことは、そばで見ていれば分かったさ」

「それじゃ……私の気持ちが海生に向いていないから……?」

「いや、それが理由で彼女を好きになったわけではない。理屈じゃないんだ」


この心がどうしたって莉良を求めてしまう。


「……本気なのね。何だか、その女性が羨ましい」


莉良といること。
それが、ただひとつ望むことだから。


「……分かったわ」


夏希はゆっくりまつ毛を伏せた。

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