午前0時の誘惑
覚めることのない時間
海生の正体を知ってから一週間が過ぎていた。
あえて電源を入れていたスマホには、あれから一度も海生からの連絡がない。
結婚も近づいた彼にとって、私はもう用済みということなのだろう。
濃密な時間を過ごしてきた割には、あっけない幕切れだった。
「ちょっと秘書課に行ってくるね」
毎日一度だけ午前中に配布される総務部宛の郵便物の中に、秘書室宛のものが紛れていたことに気づき、清香にひと言告げて席を立つ。
十八階にある秘書室を目指しエレベーターを待っていると、向かいから歩いて来た陸也と出くわした。
「どこ行くんだ?」
「ちょっと秘書室に」
私が抱えていた封筒を見て「届け物か?」と聞いた。
それに頷く。
「陸也は?」
「俺はちょっと息抜き」
そう言って、両手を広げて大きく伸びをした。