午前0時の誘惑
婚約者がいるくせに。
私とは遊びだったくせに。
こんな風に呼び止めるなんて、海生は卑怯だ。
知らない顔をして他人の振りでもしてくれたほうが、ずっとよかった。
「莉良、話したいことがあるんだ」
言い訳なら聞きたくない。
私の目にしたこと以外に真実はないのだから。
「お願い、もう……」
海生の手を払いのけて振り返る。
そこで目に入った陸也の姿。
陸也は困惑気味に私たちを見ていた。
「彼氏なの」
思わず口から出た嘘だった。
陸也を彼氏に見立ててしまうという暴挙に打って出た。
陸也の元に掛け寄り、その腕に自分の腕を絡ませる。
咄嗟に引き抜こうとした陸也を力まかせに引き留めた。
「私の彼氏なの」
陸也は小さく「え?」と呟いて、私を横から見つめた。