午前0時の誘惑
◇◇◇
午後三時。
今頃きっと、式典が始まっている頃だろう。
大企業に相応しい、嫌味なほどの豪勢な式典が。
あれきり海生からの着信は、すっかり途絶えた。
案外とあっさりしたものだった。
私では不適格、身分不相応だと海生も悟ったんだろう。
淹れたばかりの苦いコーヒーを口にした。
溜息もろとも呑み込んでしまうように飲み干せば、明日には違った朝を迎えられるはず。
そう信じて、二杯目のコーヒーを淹れた時だった。
不意に鳴らされたインターフォンに玄関へと向かう。
「――黒川さん!?」
「莉良様、お迎えにあがりました」
ドアの向こうに立っていたのは、もう会うこともないだろうと思っていた黒川さんだった。
彼が仰々しく頭を下げる。
「迎えって……」
「海生様の元へお連れするためでございます」
「……悪い冗談はよして」
黒川さんの行動は、いつだって突発的だけれど、そういう冗談は本当にやめてほしい。