午前0時の誘惑
◇◇◇
部屋に響くチャイムで目覚めた朝。
嫌味なほどに降り注ぐ光が、私にかかった魔法を解いていく。
シーツを素肌に巻きつけて、静まり返ったドアを開けた。
今日も全身黒ずくめ。
朝の目覚めには相応しくない、SPを思わせる風貌の黒川さんが、目の前で頭を下げていた。
海生の執事だ。
年齢はたぶん六十代前半。
年齢にそぐわない真っ黒な髪は、いつもオールバックでビシッと整えられている。
細面で柔和な目をしたダンディな人だ。
「おはよう、黒川さん」
「――お、おはようございます。莉良様、何という格好をしているのですか」
私の姿をひと目見て、黒川さんの目が点になる。
さすがにシーツ一枚はまずかったかと、反省の気持ちが過ったけれど、笑顔で誤魔化した。
「だって、黒川さんを待たせたら悪いかなと思って」
「そんなお姿を私が見たと海生様が知ったら、お嘆きになります」
私の姿から目を逸らして、動揺しきりだった。