シェジャン姫の遊戯
次の日の夕刻、

ムーラン王妃は紫のバラが活けられた鏡台の前で

舞踏会の身支度を整えながら、
まだ心を決めかねていた。

国王ベルトワとは、
過去に公式の場で言葉を交わした事は
幾度もあったが、

今日のように親しく話す事は初めてであり、

飾らない気さくな人柄である彼との散歩は楽しいものであった。

また、声を立てて笑ったのも久しぶりであった。

しかし、夫以外の男性との会話が楽しいと感じる事は、

同時に、亡き夫への罪悪感を募らす事にもなり、
王妃は苦しく感じた。

やはりここに来るべきではなかったのか…、とまで考えた。

しかし、王妃の体の奥底では、

悲嘆暮れる心の暗闇に、

小さくても一筋の明るい光を求める声が、

日々沸き上がって来るのも事実であった。

この、時折沸き起こる、

光を求める自分の中の感情を、

王妃はいつも必死に打ち消していた。

一度、それを認めてしまうと、

亡き夫への愛が薄らいでしまうのでないかと、

王妃は恐れていたのだ。

それほどまでに、ムーラン王妃は、

亡き大公を愛していた。


しばらくの間、
王妃は考え込んでいたが
やがて、意を決して立ち上がった。
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