サクラリッジ

歌うように語る

店に入るとビュネは慣れた手つきで名簿に項目を記入し、それを終えると店員に見せた。
店員は名前と人数を読み上げ、飲み放題にするかとか、プランはどうするかなどといくつか質問をしてきた。
それに答えると、程なくしてリモコンと部屋番号の書かれた帳面を渡された。
ビュネはそれらを受け取って、迷いのない足取りで店の奥へと進んでいった。
「部屋、どこなの?」
私が尋ねると
「んー、どこだろ?ここは初めてだし」
そういってビュネはレストランのメニューのような帳面をよこした。
「は、初めて?ユーコと来たんじゃないの?」
「うんー。ここじゃないけど、カラオケには行ったよー」
こいつは駄目だ。カラオケに行ったかどうかは聞いていないんだ。ここに来たか聞いているんだから。
行動にいちいち迷いや不安が感じられないから、頼りがいがあるのは確かだが、万事がこの調子では目的が何一つ果たせない。
私がしっかりしなくてはいけない。そう思った。
今度は私が先に立ってビュネを案内した。
店の奥の、トイレのさらに奥にその部屋はあった。
店の最深部と思しき部屋で、人が通ることはまずなさそうな位置だ。
私は扉を開いて、ビュネを中へと招き入れた。

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