サクラリッジ
ビュネと出会ってから、二年がたとうとしていた。

私は大学を休みがちになり、堕落と退廃の一途を辿っていた。

私も病んでいたのかもしれないし、そうでないのかも知れない。

少なくとも私は学校にはあまり行かなかったのは事実だ。


時期は夏休みに入る前だろうか、七月を目前に控えた、とても涼しい日だった。

「毛、そっちに行くから遊ぼうよ」

ビュネから突然の申し出があった。

毛布というハンドルネームを名乗っていた私は、しばしば毛と呼ばれた。

中共との関係は絶無だし、もちろん毛沢東とも関係がない。

ただのあだ名だ。

当時、私は埼玉に住んでいて、ビュネは岡山だった。

電話をしたりメールを交わしたりで頻繁に交流していたが、まだ会ったことはなかった。

ビュネの上京のしらせを聞いて、指先にまで届くほどに、胸が高鳴ったのを憶えている。

その日、私は初めてタバコを吸った。

二十歳の誕生日を迎える一月前だった。

何故かはわからないが、吸わずにはいられない気分だったのだ。

ビュネは相変わらずエキセントリックで、何のために上京するのかを語らなかった。

友達のマンションの隣室に住むだとか、駅から近いだとか、有名なラーメン屋があるなど
の細かいことは話してくれたが。

話す気がないならいいかと思い、あまり詳しくは聞かなかった。

ハッキリしたのは、ビュネが七月に東京にくるということだ。

私は、ビュネに会ったら何をして、どんな話をしようか考えていた。
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