サクラリッジ
私は、今までずっとひとりの男だった。
それがまた、ひとりに戻るだけの話だ。
なにも変わらない。なにも…。

そんなことがあってからは、ビュネは暫く顔をみせなかった。
私もネットに接続する頻度が落ちた。そういう要因が重なったせいか、もうビュネを見ることもないのかと思った。
最後に実際に会って話をしようと言っていたが、ただの口から出任せだったのか。
ビュネとは一ヶ月以上も音沙汰がなく、その間私はかに玉と親交を深めていた。
これがドラマならば、私とかに玉が恋に落ちてハッピーエンドなのだが、現実はそんなにつまらない事を許しはしない。
現実というやつはいつだって、私を叩きのめそうとしているのだ。
隙を見せれば、たとえそれが百年に一度の油断だとしても見逃しはしない。
長く丈夫な棍棒を持って、囚人を見張る看守が、私のイメージする現実像だ。
ともかく、いくら仲を深めようと恋愛には発展はしないのだ。
お互いに、そうでない関係を望んでいたように思う。
それに、別れたからといってすぐに次に行くほどの気力もなかった。
その点から考えても、私は少なからずダメージを受けていたのだろう。
失恋と言っても良いのかはわからないが、その爪あとは確実に残っていた。
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