サクラリッジ
その夜、気分転換に映画を見たのを憶えている。
ここ数年は映画など見ることもなかったが、無性に見たくなったのだ。
「あなたが寝てる間に」という題名だった。
父親が映画好きで、頻繁にビデオテープに録画しては居間にそれらを積んでいた。
私はそのビデオテープの塔の中から、何の気はなしにそれを選んだ。

恋愛ものの映画で、主人公の女が、夢に出てきた男に一目惚れをして・・・
というような話だった。

私は普段は恋愛ものは、映画はおろか、小説も漫画でも敬遠する傾向があった。
どうせ男女がくっついてハッピーエンドだろうと思っているからだ。
それでも、なぜか見入ってしまった。
この映画が特別に面白いからではなく、ただなんとなくだ。
きっと、普段の私の精神状態とは著しく異なっていたのだろう。
映画を見ながら、私はビュネを思い出して泣いていた。
登場人物と私たちの間には、何の接点も共通点もないのだが、それでもビュネを思い出さずにはいられなかった。
そのとき、初めて私は失恋したのだと言うことが実感できた。
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