おにぎり丼。
鍵屋が帰ってすぐに、1本の電話があった。

由美子さんからだった。

「みどりちゃん、久しぶり」

なんとなく、元気の無さそうな声だった。

「突然なんだけど、うちの息子、知らないわよね?」

「え?」

「あぁ。知らないなら気にしないで」

「息子さん、どうかしたんですか?」

「ちょっと家出しちゃって……。たまにメールは来るんだけど、ちっとも帰ってこなくてね」

「そうなんですか」

「小烏ヶ丘駅の近くにいるって言うから、ちょうど翠ちゃん、そこに住んでたと思って」

「それは近いですね。隣の駅です」

「まさかと思って電話してみたけど、やっぱりみどりちゃんのところにいるわけじゃないのね」

「力になれなくてすいません」


「いいのよ。気にしないで」

「早く帰ってくると良いですね」

「ありがと。そういえば、店長のお見舞いには行った?」

「え?店長ですか?」

「腰は良くなってきたんだけど、巻き爪の手術をすることになって入院してるのよ」

「へえ。そうなんですか」

「暇してるみたいだから、時間があったら、みどりちゃんもお見舞いに行ってあげてね。病院の場所は……」

と、由美子さんは老店長の入院している病院の場所を詳しく説明してくれた。

由美子さんは、夫が死に、息子が家出をして、大変な状況なのに、老店長のことまで心配している。

なんてやさしい人なのだろうと、感動してしまった。

「はい!絶対お見舞いに行きます!」

絶対お見舞いに行こうと、かたく決意して、私は電話を切った。
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