おにぎり丼。
「よく来てくれたね」

「店長、久しぶりです」

「いや、もう店長じゃないよ。ただの吉井じゃ」

自嘲気味に、老店長は言った。

老店長は、もう店長ではない。

今は、ヒトシが1号店の店長の仕事をやっている。

1号店をひっかきまわして、老店長を病院のベッドに追いやったのは、ヒトシと私だ。


そう思うと、居たたまれない気持ちになる。


「いえ。店長は店長ですよ。早く元気になって店に戻ってきてください」


「そうじゃな。いつまでも2号店の蛆虫どもに店をまかせているわけにもいかん」

「そうですね……」

「しかし、みんないなくなってしまったからのう」

「そうですね」

「昔は、良かったのう」

老店長は遠い目をして言った。

そこから、老店長の思い出話が始まった。


ヨッチーが面接の時に、緊張のあまり、嘔吐して気絶した話……

雑誌にファーストフーズ1号店の紹介記事が載った話……

みんなで社員旅行に出かけた話……

村松さんや由美子さんの新人時代の話……

老店長の話は、どこまでも長かった。
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