おにぎり丼。
「どんなことをやっているんだ?」

ヒトシが嬉しそうに質問する。


「アルバイトの二郎っていう男が来る日にだけ小銭を盗むようにしています。ばれたら私も危険なんですけどね」


「へえ。ほかには?」


「ヨッチーっていう嫌われている社員の人がいるんですけど、彼のロッカーにアルバイトの女の子のストッキングを盗んできて入れたりしています」


「それはすごいな」


「たまにですけどね」


「コーヒーのおかわり、どう?」


「あ、はい。いただきます」


「みどり君……」


「はい?」


「いや、なんでもない」


「なんですか?」


「うーん。なんかね、こんな風に君と毎週会うようになるとは思わなかったよ」


「私もです」


「うん。なんていうか……なんでもない」


「え?」


「家まで送るよ」


「はい。いつもありがとうございます」



暗くて良かった。

私の顔はおそらく真っ赤になっていただろう。

具体的な言葉は無くても、ヒトシの好意が伝わってきた。



その夜、私はなかなか寝付けなかった。

幸せで胸がいっぱいで、工作員になって本当に良かったと思った。
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