おにぎり丼。
先月のことだった。

閉店後の片付けをしていると、店長に声をかけられた。

「みどり君。君に頼みがある」

店長は痩せて小柄な、なよなよとした男だ。顔立ちは良く整っており、見ようによっては、ビジュアル系バンドのメンバーのようだ。

実際、学生の頃はバンドをやっていたらしい。

確か、おにゃんこクラブのコピーバンドだと言っていた。

店長は私よりも一回り年上なので、世代が違って、よくわからない部分がある。

「君なら出来ると思うんだ。いえ、君にしか出来ないことなんだ」

「なんですか?」

「1号店にバイトとして入ってもらいたいんだ」

「え?」

思わず目が点になってしまう。

「そ、それってどういう意味ですか?」

「工作員として働いて欲しいんだ」

店長は小さくほほえんだ。青白い顔にかわいらしいえくぼが現われる。


「アルバイトとして潜り込んで、内部の情報を集めてきてもらいたい。もちろん、ばれない範囲で悪さをしてもかまわない。時給は毎月の給料の倍出すよ」

「……どうして私が?」

「君なら、まだ1号店に顔を知られていない。社員の中では一番新しいし、それに、これが一番大事なことだけど、君は信頼できる人間だ」

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