おにぎり丼。
遺書を読む私を見つめて、由美子さんは涙ぐんでいた。

こんな遺書を残して死なれてしまったら、由美子さんも辛いだろう。

さっと目を通したところ、特におかしいところはなかったように思えた。

強いて言うのならば、天国に行く下りだろうか。

ヨッチーのような男が天国に行けるとは思えない。


「ごめんなさい」

由美子さんはそう言って、涙をティッシュで拭いた。

「あの」

と私は言った。

「どうしたの?」

「由美子さんは、この遺書のどういう部分が気になったんですか?」

「みどりちゃんは気付かなかった?」

「え?」

「一人称が、『私』と『ぼく』になっているの」

「あ。そうですね」

確かに、遺書の中の一人称は統一されていない。

しかし、このくらいのミスはよくあることなのではないだろうか。


「警察の人はね。正常じゃない精神状態だったから、このくらいのミスはおかしくないと言っていたわ」

「確かにそうですね」

「でも、彼、ヨッチーは、文章だけはとても巧かったの。若い頃は詩人をめざしていたのよ」

「詩人!?」

「そう。だから、こんなミスはしないはずなの。文章がちぐはぐな感じなのも、彼らしくなくて」

「それにね」

と由美子さんは続けた。

「それにね。なんとなく、文がよれよれしていない?」

「よれよれ?」

「ワープロで打って印刷した文章なのに、なんとなく揃っていない感じなの。なんていうか、切り貼りしたみたいな……」

確かに言われてみると、微妙にずれているような気がする。

「とにかく、何か変なのよ」

由美子さんはそう言って頭をかかえた。

そんな由美子さんを私は気の毒に思った。

遺書に私の実名があげられていたらどうしようと思ってここに来た私だが、少しでも由美子さんの役に立てることがあったら協力したいという気持ちになった。


「あの、これ、コピーをとらせてもらって良いですか?」

私が言うと、由美子さんは、FAXのコピー機能を使って、すぐにコピーをとってくれた。


私はコピーを受け取ると、礼を言って、由美子さんの家を後にした。
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