【短】雪の贈りもの
*雪の音
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【音】
初めて彼を見つけたのは、冬の訪れを知らせる、空からの贈り物が届いた朝。
いつもよりキュッと閉じた空気を感じながら、私は首に巻いたマフラーに顔を埋めるようにして店に向かって歩いていたんだ。
その時、目の前を、何かがひとカケラ通り過ぎた。
『──雪……』
見上げた空からは、ゆっくりと、真っ白な雪が舞い降りて来ていた。
それが、そっと、私の睫毛に乗り。
鼻先に乗り。
頬を滑る。
冷えた空気よりももっと冷えた粒に、私はピクッと体を震わせた。
次第に増し始める、雪たち。
けれど、フードを被る気持ちにはなれなかった。
寒さに弱い私は、この白の季節が訪れる度、必要以上に体を震わせるのだけれど。
それと同じだけ、私の心を躍らせる、また新たな“とき”。
周りは俯き加減で、私の横を足早に通り過ぎて行く。
せっかくの初雪を楽しむ隙もないほどに。
だから。
私は波に逆らい、止めた足をそのままにした。
大切なものを見失いたくなくて。
今あるこの“とき”は、一瞬だけ。
手のひらに乗った白たちも、明日降る雪とは別のものたち。
儚い命ならば──。
手のひらに乗った白は、シュッと色を消し、水となった。
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