【短】雪の贈りもの
彼は私に気づくとすぐに、右手の指3本と左手の指1本を合わせてから、クラッカーを鳴らすような仕草をする。

だから私も、左手の甲に直角に当てた右手をクイッと上げて見せた。

文字でも声でもない『おめでとう』と『ありがとう』。

彼は私を見て、ニッコリ微笑んだ。

そして

『ゆきおです。改めて……初めまして』

口を動かし、恥ずかしそうに頭に手をやってから、その手を私に差し出す。

私は嬉しさと照れを感じ、小さく笑いながら、差し延べられたものを見つめた。

そこに自分の手を重ねるには、緊張が邪魔をして。

そんな私の戸惑いに気づいた彼は、

『僕のお願い、きいてもらえますか?』

そう言って、空を見上げ、差し延べた手の平に雪たちを乗せた。


慈しむように。

愛おしむように。

まるで、私と彼の間に流れる時間だけが止まってしまったかのように。


口元に白く浮かぶ彼の息は、あの日と同じように優しく微笑んで。

私は、やっぱりそこから目が離せない。


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