【短】雪の贈りもの
彼は視線を空から私へ戻すと、再び柔らかに微笑み、鞄から何かを取り出して、それを私に渡した。

それは、文字の詰まった原稿用紙。

“雪の贈りもの”

と言うタイトルの、小説のようだった。

私は小さく首を傾げてから

『読んで下さい』

彼の口の動きを見つめ、原稿用紙をめくった。

そこには……



──ヒラヒラ。

──チラチラ。

──ふつふつ。

──キラ。

──ふわふわ……。



彼を通して私が感じた音が、そのまま文字になっている。

同じ音を、私は彼と同じように感じ取る事ができていたんだ。

そう思うだけで、胸がいっぱいなのに。

その中には、彼の目に映る私がたくさんいて。

彼の想う私がたくさんいて。

私にも聴こえる音が、たくさんあって。

『デートして下さい』

そう書かれた、彼のお願いがあって。



“有希子さんへ──

──雪男(幸雄)より”


最後の文字を追ってから顔を上げた私に、彼は、クルッと瞳を転がして微笑んだ。

それはまるで。

少しだけ成長し始めた、私の心を映し出すようで。

やっぱり力の抜けた私の手から、ルミエールの箱が地面に滑り落ちる。


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