恋〜彼と彼女の恋愛事情〜
「とりあえず、奥に着替えがあるから、香奈枝は着替えておいで」

悠人さんの優しい一言に頷いて、香奈枝は一人奥の部屋に入っていく。

俺はまたカウンターに座る。

少しの沈黙のあと悠人さんが話してくれる。

「香奈枝のお父さんは俺の弟でさ、根はまじめで働き者なんだが、酒が入ると酒乱になる」

酒乱。

「奥さんにもそれが原因で逃げられてる」

「・・・香奈枝は?」

「香奈枝は・・・母親に捨てられたも同然でね。上に姉がいるんだが母親は姉ばかり可愛がる人だった。・・・だから、逃げるときも姉だけ連れて行ったんだ」

「そんな事・・・」

「親なら香奈枝も連れて行け!って怒ったんだけど、ダメだった。・・・香奈枝をみるとどうしてもイライラが止まらないらしくて」

なんだよそれ。

「早瀬君にはまだ分からないだろうけど、そんな親もいるんだよ」

そっとコーヒーを出してくれた。

「あ、ありがとうございます」

「結局、酒乱の的になったのは香奈枝だ。高校生だから逃げるにも逃げられない。酒を飲むたび・・・暴行を受けてる」

え!?

「いつもは酒を飲み始めると逃げてきてたんだが・・・今日は雨が降っているせいもあって、父親の仕事が早く終わったんだろう・・・帰ったら飲んでしまってたんだと思う」

あ、だから『つかまったかな』って言ってたのか。

「つかまったら最後逃げ出せない。・・・飲んだくれて寝るのを待つだけだ」

そんな・・・。

「香奈枝はそれを中学の時から我慢してきた」

まじかよ・・・。

「香奈枝の体は・・・あざだらけでね。外に見えない部分だけにあざが残ってる。香奈枝のスカートが長いときはあざがあるんだよ」

・・・・そうか。

スカートが長かったり、短かったりするのは・・・そういうことだったのか・・・。

「それでも香奈枝は明るくて前向きでね」

そうだ。

香奈枝はいつも明るい。

『ポジティブじゃないとやっていけないのよ』

香奈枝が言った言葉を思い出した。

「中学卒業間近に、男の子に体のあざを見られたらしくてね」

ん?






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