咳払いのあとで


「今日はそろそろだな」



先生が腕時計を見る。



部屋の時計で8時58分。



「じゃ、次回までの課題は…」



と、いつも通り問題集を開いたところで、ずっと考えていた事を行動に移した。



「先生…」


「…ん?」



手を止めて、私を見てくれる。



「今日、まだ時間ありますか?」



目をギュッてつぶって、反応を待った。



「……全然大丈夫だけど。どした?」



心配そうな声が聞こえる。



頑張れ、私!!



この部屋でイヤな思い出は残したくない!



毎日思い出しては泣くだろう。



だから…



「良かったら、今から散歩行きませんか?」



「散歩?ん。いいよ。あ、じゃあコレ持ってこ」



速答でオッケーした先生が、鞄の中から取り出したのは、…アップルジュース。



しかも2個。



先生、どこまで……。



「はい」


「あ、ありがとうございます…」



2個共、私にくれる。



また俯いて感動してしまう。



先生…。
今、飛び付きたいです。


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