咳払いのあとで

「こりゃあ、絶対何かあったね？」


「う゛っ。べ…別にぃ…」


目をそらす。



「ホントにウソがつけないねー、碧ちゃんは〜」



奈津子ニタニタしながら、私を本当の名前で呼ぶ。



私。渡辺碧（わたなべ　あおい）家族にまで『アオ』って呼ばれてるくらいニックネームの方が浸透してる。
小さい頃から何度教えても自分の事『アオね。アオね』と言い続けてたら、両親も根気負けしたらしい。親！いいのか、それで！？



「うおいっ！またトリップしてるぞ！」



奈津子が両手で私の顔を挟んで手前に引く。私の顔がタコ化。



「ふぁかった！いいまひゅ、いいまひゅっ」



「よし」と奈津子は笑いを堪えながら手を離す。私は自分の両頬を擦りながら、昨日の事件の事を話した。


「…と、いう訳です」


「なるほどー。で、アオは何でそんな事を『カテキョ様』がしたかがわからないって訳……。ア、アオっ！顔の筋肉が全部緩んでる！」