月と太陽の事件簿11/愛はどうだ
木村が気にするのはそんな理由からだろう。

「お忙しいところお邪魔してすみません」

達郎は頭を下げた。

「おや…」

緒方教授は意外といった顔で達郎を見た。

「まさか君の方から僕を訪ねてくるとは思わなかった」

教授の言葉に達郎は違和感を覚えた。

達郎は緒方教授の授業は選択していない。

実際に話すのは今日が初めてだ。

しかし教授は前から達郎に興味があったような口調だった。

「君の翻訳を目にしたことがあってね」

緒方教授は達郎に椅子をすすめた。

「読みやすくて、いい訳文だった」

「どうもありがとうございます」

「まるで君のお母さんの文章を読んでいるようだったよ」

緒方教授の言葉に、達郎は思わず腰を浮かせた。

「母を知ってるんですか?」

達郎が驚いたのも無理はない。

祖父母や父、兄から緒方教授の名前を聞いたことはなかったからだ。

緒方教授はそうだろうねと笑った。

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