月と太陽の事件簿11/愛はどうだ
「僕が君のお母さんとの接点は中学高校の6年間だけだったからね」

しかもプライベートの付き合いはまったく無く、高校を卒業してからは一度も顔を合わせる機会はなかった。

それでは母以外の家族が緒方教授の名前が出てこないのは当然だろう。

「でも中学校では3年間同じクラスだったし、高校では同じ文芸部に所属していたんだよ」

そんなわけで、達郎の母の文章に接する機会は多かったという。

「君のお母さんは文章だけでなく字も綺麗でね。毎年もらう年賀状が楽しみだったな」

達郎にはおぼろげながら記憶があった。

けして少なくはない数の年賀状をしたためる母の姿だ。

筆ペンで一通一通、丁寧に宛名を書いてゆく母の横顔を、達郎はじっと見ていた記憶がある。

思えば母に早くかまってもらいたくて、横にはりついていたのだろう。

「年賀状には君のことも書いてあったよ」

高校卒業後の母との接点は、年賀状だけだったそうだ。

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