月と太陽の事件簿11/愛はどうだ
やがて夜もしらじらと明けてきたその時、家の中で女の叫び声がした。

男が家の中に飛び込むと、そこには女の姿はなく、おびただしい血の跡が残っていた。

男は女が鬼に喰われたと察した。

そして泣きながらこんな歌を詠んだ。



白玉かなにぞと
人の問ひし時

露と答えて
消えなましものを



愛しい貴女は死んでしまった。

死ぬ前にせめて、あれは夜露だよと問い掛けに答えておけば良かった。

人の命は露のように儚いものだと、そういった意味の歌である。

「ですがこの話に裏があることは知っていますよね」

男というのは伊勢物語の主人公・在原業平。

女というのは二条の后。

業平は后と恋に落ち、連れて逃げようとした。

しかし后の兄である堀河大臣に見つかり、后を連れ戻されてしまった。

ところが業平は后を取り返されたとは言わず、女は鬼に喰われた・露のように儚い人だったと自らの体験を切なくも美しい物語にしてしまった。

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