月と太陽の事件簿11/愛はどうだ
それは猫専門のペット誌だった。

「緒方先生はその雑誌の今月号にエッセイを書いています。僕はここに来る前に、そのエッセイを読みました」

そのエッセイは教授が飼っているペルシャ猫について書いたものだった。

「そのエッセイは『君の青い瞳は…』から始まっていました」

達郎の言葉に、亜季は目を大きく見開いた。

「もうおわかりでしょう。貴女が見た恋文というのは、緒方先生が書いたペットのペルシャ猫に関するエッセイの原稿です」

亜季にその原稿を見せまいとしたのは奇をてらった文章を見られるのが気恥ずかしかったからだろう。

「つまり緒方先生に愛人はいません」

「そうだったんですか」

亜季はため息をついた。

「なんか私、馬鹿みたいですね…」

「葉野さん」

「失礼します」

達郎の言葉を待たずに、亜季は歩き出した。

達郎はエレベーターへと向かう亜季の後ろ姿を、ただ見送ることしかできなかった。

< 49 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop