月と太陽の事件簿11/愛はどうだ
いや、そんなに強く言ったつもりはない。

問題は風呂から出た後だ。妻がえらい剣幕で詰め寄ってきたんだ。

その手にはセロテープでくっつけ直したキャバクラ嬢の名刺があった。

「あとことは想像できるだろう?おかげでこのザマだ」

木村はもう一度、眼帯を指した。

「セロテープでくっつけた名刺というのは?」

「店でもらったんだが、捨てそびれてね。玄関前であわてて破いたんだ」

「捨てる決心がつかなかっただけじゃないですか?」

「そ、そんなことはないよ!」

あわてて弁明する木村の顔を、達郎は唇を尖らせながら見つめた。

「と、とにかく」

木村は咳払いした。

「なぜ妻がキャバクラに行ったことを察したのか、この謎を解いてもらいたいんだ」

「謎、ねぇ…」

達郎はやる気のなさそうな顔でつぶやいた。

「破った名刺を未練がましくポケットに入れておいたなんてことは?」

「それはしてない!」

名刺は玄関脇の屑カゴに放った。

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