月と太陽の事件簿11/愛はどうだ
エレベーターが到着する直前、亜季は振り向いてこちらを見た。

「すいませんでした」

亜季はそう言って深々と頭を下げた。

エレベーターの扉が開き、亜季はその中へと姿を消した。

達郎はしばらくソファから動かなかった。

その脳裏にはエレベーターに乗る直前の亜季の顔が焼き付いていた。

亜季は泣いていた。

しばらくたってから達郎はソファから立ち上がった。

すっかり冷めてしまった缶コーヒーを片手にマンションを出る。

夜の冷気が身体を包み込んできた。

ダウンコートの前を合わせながら缶コーヒーを開けた。

そして意を決してひと口飲んだ。

「苦(にが)ッ…」

達郎はそうつぶやいて歩き出した。

足取りは重く、気分は最悪だった。

母の面影を持つ女性の涙を見てしまった。

達郎はコーヒーを一気にあおった。

口全体に苦味が満ちる。

吐き出しそうになるのを懸命にこらえながらすべて飲み干した。

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