優しい告白
隣に座る予定の彼は、私とはただの隣に座るお客。

話をするどころか、手を繋ぐなんてありえない。

私は、どんな顔で彼を迎えれば良い?

考えれば考えるほど、憂鬱になった。

こんなことなら来なけりゃ良かった。

どうしよう……。

帰ってしまおうか。

理由なんかどうにでもなる。

そう、考えがまとまった途端、背中で誰かが声を上げた。


「塁!」


呼ばれた名前に思わず振り向いてしまった。

そこには、去年の誕生日に私があげた黒いキャスケットを目深に被った彼がいた。










スターのオーラを身に纏い、軽く片手をあげて客席に応えるアイドル。










私の大切な愛する彼は、別の世界にいた。




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