天使の卵
説得しようと何度か試して、顔に傷を作ったのは何秒前だったか。

「だーかーら…! あぁもう良い。 俺が悪かった」

今だから分かる友人 誠司の台詞が頭を掠めた。『女に怒られたら、とりあえず謝れ』
『奴らは、最初理論で話すが、途中から感情論に移る。最後は泣き喚く。
とりあえず 土下座だ!』
土下座はゴメンだが、もう 俺が悪いってことで良い。

「……ふぅ。 仕方ありませんわね」
卓袱台の上に座った状態で、微妙に顔を赤くしたかと思ったら、出会い頭の事故ですものと呟く。
分かってんじゃねぇか。 てか、出会い頭のシーンを思い出して赤らめるくらいなら忘れろ。
言ってやりたいが、言えばまたキーキー喚くだろうから、スルーすることにする。

「で? アンタはなんなんだ? 」
聞けば、目の前の少女は紫の瞳をパチクリと瞬いて、胸を張る。
「人に素性を聞くときは、ご自分から ですわ」
ああ、そうですねって。夕日が目に眩しいのは、遮光のせいだけじゃねぇよな。

嘆息して、卓袱台の前に胡坐をかきなおす。
「南城暁(なんじょう あきら)。 17歳。 桜花高校で二年高校生をやってる。
んで、そっちは? 」
顎をしゃくれば、恭しく純白のヒラヒラしたスカートを両手で持ち上げるミニマムな女。

「アイーダ。 アイーダ・ハイウェルですわ。 天使の昇進試験で下界に参りましたの」

それの証拠というつもりなのか、先ほどは見えなかったはずの白い羽がアイーダの背中から生える。
白鳥とかカモとか、それっぽい羽が。

「…そうか。 分かった。 んじゃ出てけ」

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