野獣狂想曲
音楽室には私と玲奈の二人きりになり、急に静かになった。

「……陽菜、あたしも一緒に行こうか？」

いまだ放心状態の私に玲奈が心配そうに声をかける。

「一人で大丈夫だよ。いつまでも玲奈に頼ってばかりじゃ成長しないから」

私は玲奈にこれ以上心配を懸けないように笑顔を見せた。

「それに、今週末は伊織くんと遊びに行く約束してるでしょ？」

伊織くんというのは、ひとつ年下の玲奈の幼馴染み。前々から次の休みは一緒に遊園地に行くと玲奈から聞かされていた。

「確かにあいつの方が先約だけど……」

表情を曇らせた玲奈の横をすり抜け、ピアノの前に立った。

「心配しないで。本当にもう大丈夫だから」

蓋が閉められているピアノにそっと触れた。

「私も、弾きたいな……」

そう呟いた言葉は突然吹いた風に飲み込まれた。



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