野獣狂想曲
「その子はとても卓越した技術を持っていた。あるコンクールでその子のピアノを聞いて、俺もその子のようにピアノが弾けるようになりたいと思ったんだ。けど……」

月島さんはそこで言葉を区切り、目を逸らした。

「ある時から急にその子の名前を見なくなった。その子は突然ピアノの世界から消えた。……その子の名前は宮城陽菜。お前だよ」

突然目が合い、今度は私が目を逸らした。

月島さんが私のことを知っていたなんて……。

「陽菜、お前は何故ピアノを止めた?」

「…………」

私は下を向いたまま黙っていた。月島さんもそれ以上何も言わず、2人とも沈黙したまま時間だけが流れていく。

長い沈黙の後、私はすべて話す決心をして、ゆっくりと口を開いた。

「……コンクール間近の雪が降った日、私は事故に遭いました」



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