野獣狂想曲
「スリップした車に巻き込まれて……、次に目を開けたときには病院のベッドの上にいました。幸い命に別状はなかったけど、腕の怪我が酷くて、担当の先生からは『リハビリしても今までのようには弾けないかもしれない』って言われました。それからしばらくして、リハビリを始めました」

私は退院したときのことを思い出していた。


家に帰って真っ先にピアノに触れて、そして絶望した。

指が思うように動かせなくて、今まで簡単に弾けていた練習曲ですらボロボロだった。


「リハビリをして日常生活に支障はない程度には回復しました。でもピアノは……」

今まで弾けていた曲が弾けない。
それがもどかしくて、悔しくて何度も泣いた。

「私は結局逃げたんです。弾けない自分が嫌で、弾くのを止めました」

目の前が滲んで涙が零れ落ちた。
それを皮切りに、今まで溜め込んでいたものが溢れ出るように次から次へと涙が流れ落ちていく。



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