野獣狂想曲
もうピアノを弾くのは止めよう決めてから私はピアノに近付かなくなった。それを見た両親からとても心配された。だから私は『ピアノは止めた。もういいの』と告げた。

あのとき私はちゃんと笑えていたかな?



「ピアノが弾けなくなって、やっと気付いたんです。私、ピアノが好きだって。ピアノしかないんだって……」

泣いているせいでうまく話せないけど、私はすべてを話した。今まで誰にも言わなかった本心を。

そのとき月島さんの影が動いて私は月島さんに抱き締められた。
背中を撫でる大きな手が温かくて余計涙が零れた。

「……本当は弾きたい。また弾きたいんです」

月島さんの腕の中で泣きながら呟いた。

「弾けよ。昔のようじゃなくても、ヘタクソでも。俺は陽菜のピアノが聞きたい」

間近で聞こえる月島さんの声はとても優しくて、私の中に響いた。

「俺のために弾いてくれ」

私は言葉の代わりに何度も頷いた。



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