野獣狂想曲
「やっとお出ましか」

会場で待っていた予想外の人物に私は言葉を失った。

「皇さん、結果は?」

「まだだ。そろそろ発表されると思うが」

2人がそんな会話をしている横で、私は月島さんがコウさんと呼ぶその人物を見たまま固まっていた。

「陽菜?」

月島さんに声をかけられてやっと我に返った。

「あの、月島さん、コウさんって……」

「あぁ、この人が俺の叔父でピアニストの神崎皇」

やっぱりそうなんだ。
彼は神崎皇。世界で活躍するピアニスト。そして私の憧れの人。

憧れの人に会える日が来るなんて思わなかった。

私がポーっとしながら神崎さんを見つめていると、神崎さんは月島さんを見て何か納得したように「あぁ」と呟いた。

「君が宮城陽菜ちゃんか。君の噂はかねがね聞いているよ。美人で特出したテクニックを持つ子がいるってね」

そう言って神崎さんは微笑んだ。

「そ、そんな!私なんて神崎さんの足元にも及ばないです!」

ぶんぶんと手を左右に振り必死に否定する。
実際、私と神崎さんは比べものにならない。

「皇さん、俺そろそろ行かないと」

「あぁ、そうだったね」

月島さんはそう言うと私と神崎さんに背を向け歩き出した。後を追うべきかと悩んでいると、突然月島さんが振り返った。

「陽奈、結果発表が終わったら話がある」

それだけ言うとまた背を向けて歩き出し、会場の中へ消えていった。




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