なっちゃん
「今、何時ですか…?」
先輩が言った。
眠っていた脳がようやく動き始めたのだろう。
私は腕時計で時間を確認した。
それとなく付けているだけで殆ど飾り状態だったこの腕時計に、これほどまでに感謝する日が訪れようとは。
「えぇと、午後4時を回ったところです!」
「そうですか…。まだ眠っていたいですねぇ…」
小さく溜め息を零す先輩。
そして、こう続けた。
「すみませんが、私の代わりに生徒会室に顔を出してくれませんか?」
「………は、い?」
「神谷は体調不良と訴えていました、そう伝えてくれるだけで結構です。生徒会室には必ず誰かいると思いますので」
申し訳なさそうな表情を浮かべる先輩。
そんな先輩を見て、NOと言える人が何処にいようか。
「わかりました!では、行って参ります!」
立ち上がり駆け出そうとすると、先輩に腕を掴まれてそれを制された。
「貴女、お名前は?」
「1年B組の、和泉奈都です!」
名乗れば、手を離してくれた。
「あっ、伝言、伝えられたらまたここに戻ってきますね」
「いや、結構です。私はもう寝てしまいますので…」
「わかりましたっ、じゃあ行ってきます!」
先輩は優しい笑みを浮かべながら手を振り、私を見届けてくれた。
中庭を散歩するのはやっぱり楽しい。
こんな風に出会いまでもたらしてくれるなんて。
先輩も、この中庭が好きなのかな…?