ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】
ドン――。
上総の鳩尾に、敬悟は思いっきり拳を叩き込む。
呻くこともなく、上総は気を失った。
「そう簡単に、人殺しができるかっつうの……」
はぁはぁと荒い息の下、地面に仰向けに横たわる上総を見下ろしながら、敬悟が呟いた。
それは、人として生きてきた敬悟の甘さだったかもしれない。
だが、もしその部分を無くしてしまったら、人として生きていくことは出来ないだろう。
それよりも、今は茜の方が心配だった。
茜の向かった洞窟の奥に視線を向ける。
「ドジでおっちょこちょいだからな」
クスリと笑いが漏れた。
びゅっ――。
風の唸る不気味な音が響いて、敬悟は背中が灼熱するのを感じた。すぐさま襲って来た焼け付くような痛み――。
「なっ……」
敬悟の背中に鬼の爪でえぐられた傷が、斜めに走っていた。
溢れ出すおびただしい血が腰から足へ伝い、足下に血だまりを作って行く。
敬悟は、激痛に顔を歪めながら、ガクンと両膝を付いてしまった。
「甘いのですよ、あなたは。それでは何も守れはしない――」
気絶したと思った上総が、氷のような眼差しを向けて敬悟を見下ろしていた。