ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】

「ドジもここまで行くと、もう何も言う気が起きないな……」


誰かが、茜の右足首を掴んでいた。と言うより、落ちていく茜の足を掴んで助けてくれたのだ。


茜は血が上りつつある頭を、聞き覚えのある声の主に向ける。


「敬にぃ!?」


敬悟が崖っぷちに身を乗り出して、茜の右足首を掴んでいた。


もちろん、着物でそんな状況になれば、見事な姿になる。


腰の所まで捲れ上がった裾。むき出しの腿――。


……丸見え?


「きゃぁ!?」


一瞬の空白の後、短い悲鳴が上がった。


自分がどんな格好になっているか理解した茜が、着物の裾を持ち上げようとワタワタと身じろぎをする。


「ばっ、ばかっ! 暴れるなっ。今、引き上げるから暴れるんじゃない!」


――そんなこと言ったって!


「お前、少しダイエットしろ……」


「失礼ね! これでも標準体重よっ」


片膝を付いて少しうんざりした様子で呟く敬悟の言葉に、ぺたんと地面に座り込んだ茜は、着物の裾を掻き合わせて、ぷぅっと頬を膨らませる。


が、すぐにツンと鼻を突く生臭い鉄の匂いに気付き、慌てて敬悟に視線を走らせた。


こんな匂い立つような量の出血なんて、尋常じゃない。


薄青い光の中でははっきりと見えないが、敬悟の全身は明らかに血で染まっている。

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