ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】
「……茜、何をやってるんだ?」
敬悟が、ボソリと低い声で呟く。
「え?」
茜は敬悟の髪をぐりぐりかき混ぜていた両手を、はたと止めて目を瞬かせた。
「何って……ほら、昔から何かあると敬にぃ、良くこうしてくれたじゃない? だから、たまにはお返ししようかな、なんて思ったりして。あははは……」
小さい子供にするならともかく、立派な成人男性相手に『いい子いい子』してしまった。
何だか自分でも突拍子も無いことをしたと気恥ずかしくなった茜は、照れ笑いしながら立ち上ると、一歩後ずさった。
が、すぐに腕を掴まれて、元の位置、敬悟の腕の中まで引き戻される。
「!?」
な、な、なに!
今更ながら、互いの距離の近さに気付いた茜は、どぎまぎと薄闇の青い光に照らされて浮かび上がる、敬悟の顔を見上げた。
真っ直ぐに茜を見詰める視線は、どこか険しい。
「危ない」
「え?」
怒ったように、ぶっきらぼうに言う敬悟の言葉の意味を飲み込めない茜は、ポカンとしてしまう。
「そっちは崖だ。また落ちたら、今度は助けないぞ、俺は」
「あ! あははは……」
やっと合点が行った茜は、引きつり笑いをしながら怖々と崖下に視線を落とす。
「ったく……」
敬悟は呆れたように呟くと、一瞬、『別のこと』を期待した自分に苦笑した。
茜にそれを期待する方が、間違っている。